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JavaScript の暗黙の型変換とそれを制御するメソッド

JavaScript では演算子の使用時など、様々な場面で暗黙の型変換が行われますが、この挙動は開発者がカスタマイズできます。例えば、Date オブジェクトを比較演算子で比較できるのは、内部で自動的に数値(ミリ秒)へ変換されるためです。

const date1 = new Date('2025-06-30')
const date2 = new Date('2025-07-01')

// 内部的には valueOf() が呼ばれてミリ秒に変換される
console.log(date1 < date2) // true
console.log(date1 > date2) // false

型変換を制御するメソッド #

JavaScript の暗黙の型変換は、特定のメソッドを実装することで制御できます。toString メソッドは文字列への変換時に優先的に呼び出され、valueOf メソッドはそれ以外のプリミティブ型への変換時に優先して呼び出されます。さらに [Symbol.toPrimitive] メソッドを使用すると、より柔軟な制御が可能です。このメソッドは変換先の型に応じて異なる hint('string'、'number'、'default')を受け取り、それに基づいて変換処理を行います。

const obj = {
  value: 42,

  [Symbol.toPrimitive](hint) {
    // 変換先の型に応じて hint の値が変わる
    // hint の値に基づいて変換した値を返す
    console.log(`hint: ${hint}`)
    if (hint === 'string') {
      return 'forty-two'
    } else if (hint === 'number') {
      return this.value
    } else {
      return this.value // default
    }
  },
}

console.log(`値は ${obj}`)
// hint: string
// 値は forty-two

console.log(obj * 2)
// hint: number
// 84

console.log(obj + '')
// hint: default
// 42

これらのメソッドには優先順位があります。文字列への変換時は [Symbol.toPrimitive]toStringvalueOf の順に、数値など他のプリミティブ型への変換時は [Symbol.toPrimitive]valueOftoString の順に呼び出されます。

カスタムオブジェクトでの実装 #

カスタムオブジェクトで暗黙の型変換をカスタマイズする際は、[Symbol.toPrimitive] メソッドで常に同じ型を返すようにすると良いでしょう。JavaScript の暗黙の型変換は予測しにくい結果をもたらすことがあるため、変換先の型を限定することで、より予測可能な動作になります。特に二項演算子の + は数値の加算と文字列の連結の両方に使用されるため、曖昧さを生じやすい典型例です。

以下は、年月を表すカスタムクラスで比較演算を可能にする実装例です。[Symbol.toPrimitive] メソッドでは hint に関わらず常に数値を返し、文字列表現が必要な場合は明示的に toString メソッドを呼び出す設計にしています。

class PlainMonth {
  constructor(year, month) {
    this.year = year
    this.month = month
  }

  [Symbol.toPrimitive]() {
    // hint を無視して常に数値に変換
    // 比較用に年月を数値化 (例: 2025年6月 → 202506)
    return this.year * 100 + this.month
  }

  toString() {
    // [Symbol.toPrimitive] が実装されているため暗黙の型変換では呼ばれないが、
    // toString を明示的に呼び出した場合は文字列変換できる
    return `${this.year}${this.month}`
  }
}

const month1 = new PlainMonth(2025, 6)
const month2 = new PlainMonth(2025, 7)

console.log(month1 < month2) // true (暗黙の型変換される)
console.log(`対象月: ${month1.toString()}`) // "対象月: 2025年6月" (明示的に型変換する)

結論 #

JavaScript の暗黙の型変換は簡潔なコードを書く際に便利ですが、予期しない動作を避けるために慎重に扱う必要があります。特に [Symbol.toPrimitive] メソッドで一貫した型を返すように実装すれば、コードの挙動を予測しやすくなります。暗黙の型変換に頼りすぎず、意図が明確でない場面では明示的な型変換を使用することで、メンテナンスしやすいコードを維持できるでしょう。